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ゼロ金利の経済学

岩田 規久男著 ダイヤモンド社

ゼロ金利という政策の異常性については、多方面から議論され、国民的な理解が形成されていると思われる。ただ、戦争や革命の最中にも―――食事をしたり、結婚式が執り行われたり、子供が生れたり―――日常性が存在する。非日常的な政策も、1年以上続くと日常的なものとなり、その異常性に対する認識が鈍化することになる。日銀が同政策の解除を模索する中、聞こえてくる政財界の悲鳴には、「引きこもり」のティーンエージャーが実社会に対して募らせる恐怖心に似たものを感じないだろうか。フリー・ランチはいつか終わり、誰もが自分の昼食代を払わねばならなくなるのである。

99年2月22日、政策委員会・金融政策決定会合で、議長案として提案されたゼロ金利政策は、賛成多数で決議される。以来、およそ3週間に1度の割合で、速水日銀総裁(政策委員会議長)は、同会合が同政策の継続を決議したことを、記者会見で繰り返すことになる。「ゼロ金利の経済学」は、この無味乾燥に見えた一連の記者会見に、政策委員会の苦渋を滲み出させる一冊である。

97年4月に3%から5%へ引き上げられた消費税率。それに続く消費活動の減退。アジア通貨危機。三洋、北拓、山一などの大型金融破綻。BIS規制・早期是正措置――結果としての貸し渋り。ロシアのディフォルト。日経平均1万3792円。長銀、日債銀の一時国有化。5四半期連続のマイナス成長。
97年から98年にかけての壊滅的な日本経済の状況を転換させるために、避難措置として選択されたのがゼロ金利政策である。思い起こせば、バブル崩壊に続く低成長の90年代にあって、ようやく希望の光が射し込み始めたかに思われた時、突然、降って湧いたかのように、日本の経済システム疲労が露呈し始めていたのである。

政府や大蔵省からの独立と、金融政策において、政策決定委員会を最高の意思決定機関と位置付けた新・日銀法が施行されたのは、98年4月。
「ゼロ金利の経済学」は、同政策の意義、メカニズム、有効性、解除の条件、などのアングルからこの異常決議を詳説する。岩田氏の辛口の日銀評と同時に、代わり映えに乏しい政策決定会合の議事録(この辺のディスクロージャーは、新・日銀法の効果)に、奥の深さを感じさせてくれる。ゼロ金利政策解除後でも、充分楽しめる一冊である。何故なら、ゼロ金利は、世界史的な観点からも、極めて希な(非日常的な)金融政策だからである。

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