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アニマルスピリット
人間の心理がマクロ経済を動かす

ジョージ・A・アカロフ, ロバート・J・シラー 著
東洋経済新報社
2009年5月発売
2,310円 (税込)
アニマルスピリット 人間の心理がマクロ経済を動かす

今回コメントくださったのは 熊坂 侑三 さん です
Q1 オススメ書を教えて下さい。

 この本は2001年のノーベル経済学賞を受賞したジョージ・アカロフ教授(カリフォルニア大学、バークレー校)とおそらく将来ノーベル経済学賞を受賞すると思われるロバート・シラー教授(エール大学)の共著である。

 シラー教授は1976年に筆者がペンシルバニア大学の学生の時に助教授としてきた。彼は我々に計量経済学を教えた。その当時のシラー教授はシラーラグを発明して既に計量経済学者として頭角を現していた。また、その当時流行であった“合理的期待”についてよく話しをしていた。そして、はにかみながらも“僕は経済史に弱い”と言っていたのを思い出す。彼の研究は常に膨大なサンプルを用いた数量分析であった。そんな彼がこの本において、得意な数量分析からはなれて、人間の心理から経済現象にアプローチしたことに興味をもった。

 この本を読んで直ぐに、シラー教授にいくつかの質問をEメールした。その中の一つはケインズの言う“アニマルスピリット”と彼らの言う“アニマルスピリット”との相違であった。シラー教授の答えは次のようなものだった。

 「確かに、ケインズは“アニマルスピリット”と呼ばれる要素が経済を動かす主要因であるという基本的な考え方を述べた。しかし、それから70年以上がたっており、行動科学は特にこの20年間で飛躍的に進歩した。我々(アカロフ・シラー両教授)はこの進歩した行動科学に基づいてケインズのビジネスコンフィデンスとして捉えることのできる“アニマルスピリット”という考え方を以下にみる5つの要素に発展させた。我々はこの本を従来のケインジアン理論と何年にもわたって学者たちの課題となってきた新しいケインジアン理論の仲介をなすものと考えている。」

 アカロフ、シラー両教授は人間が経済的な動機から合理的な意思決定をする従来の経済理論の重要性を認めるものの、それがリーマンショック後の経済・金融危機などのダイナミックな経済現象を十分に説明できないことを指摘し、彼らのアニマルスピリット(非経済的な動機や不合理な行動)の考え方を導入する。このアニマルスピリットには5つの側面(安心(confidence)、公平さ(fairness)、腐敗と背信(corruption and bad faith)、貨幣錯覚(money illusion)、物語(stories))があり、これらの側面から以下の8つの大きな問題を説明し、アニマルスピリット理論の有効性を主張する。

  1. なぜ経済は不況に陥るのか?
  2. なぜ中央銀行は経済に対して(持つ場合には)力をもつのか?(目下の金融危機とその対策)
  3. なぜ仕事のみつからない人がいるのか?
  4. なぜインフレと失業はトレードオフ関係にあるのか?
  5. なぜ未来のための貯蓄はこれほどいい加減なのか?
  6. なぜ金融価格と企業投資はこんなに変動が激しいのか?
  7. なぜ不動産価格に周期性があるのか?
  8. なぜ黒人には特殊な貧困があるのか?
 投資家は市場の動きが一方向に向かって拡大し、スピードが増していけば、その方向に対して“安心”する。そこには、安心乗数のようなものがあり、ケインジアン乗数とはしばしば異なる。ケインズは“公平”についてほんの少ししか述べていないが、人々の行動にとって彼らがどのように“公平”さを感じるかは非常に重要である。“腐敗と背信”はビジネスサイクルに関わってくる重要な要素である。“貨幣錯覚”は人々がしばしば名目の価値で判断することであるが、ケインズは“貨幣錯覚”を彼の理論に導入しなかった。しかし、“貨幣錯覚”の要素はかれらのアニマルスピリットの一つの要素として重要である。例えば、物価が下落していても人々は名目賃金の引き下げには抵抗をする。 “物語”を通しては人々は“安心”を形成する。すなわち、人々は自分達の状況に関わっているいろいろな話に基づいて意思決定をする。

 アカロフ・シラー両教授は上の8つの問題をアニマルスピリットの5つの要素から上手く説明できたという。例えば、なぜ我々のほとんどがリーマンショック後の経済・金融危機を予測できなかったかをアニマルスピリット理論は説明できたと言う。どの程度彼らのチャレンジングな試みが成功したかの判断は読者にお任せしよう。むしろ、この5つのアニマルスピリットの要素で読者自身のこれまでの投資行動をどこまで説明できるかを試してみるのがよいだろう。おそらく投資家にとって興味があるのは1,2,6,7の問題であろう。彼らの結論の重要な一つとして、アニマルスピリット理論に従えば、従来よりも政府の役割は大きくなる。

 投資家は誰もが意思決定のための自分自身のモデルをもっているだろう。そのモデルの基本はやはり人々の経済動機に基づいた合理的な判断から成り立ち、常にシステマティックに解を求めることだろう。そして、その解の解釈、あるいは応用として投資家はアニマル・スピリットを直感的に応用しているのではないだろうか?アカロフ・シラー両教授はこの直感的な部分の重要さを認め、明示的にアニマルスピリット理論を形成することを試みた。

   この本を読むことによって、投資家は意思決定に対して、今まで直感的部分であったアニマルスピリットの要素を如何に明示的、かつシステミックに導入するかを学ぶことができるだろう。

 シラー教授を良く知る筆者にとって残念だったのは、アニマルスピリット理論をより説得性のあるものにするために、いつもの彼のようにできるだけ多くの実証データを使ってほしかった。

Q2 5点満点で採点すると?
読みやすい★★★
知識がつく★★★★
おもしろい★★★
儲かる★★★★
専門的★★★★
総合オススメ度★★★★


プロフィール

熊坂 侑三さん
Yuzo Kumasaka

Yuzo Kumasaka

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投資家のための米国経済 超短期予測レポート
投資家のための
米国経済 超短期予測レポート

経済学博士、ITeconomy Advisors, LLC 代表

1972-75年と日本経済新聞社において日本経済モデルの開発・予測、またオンライン経済分析システムの開発に従事。 1975年に米国に渡り、ペンシルバニア大学で経済学博士号を取得。専門は計量経済学、マクロ経済学、国際貿易。ローレンス・R・クライン教授のもと 1977年より今日まで世界各国のエコノミストとのネットワークをもつ。職歴は、ウォートン計量経済研究所エコノミスト、国連エコノミスト、NYニッセイ基礎研首席研究員を勤め常に米国経済を分析・予測。2001年にペンシルバニア大学の教授陣等をアドバイザーとしてITeconomy Advisors, Inc.を設立。

1990年代初期より、米景気を数値とトレンドで捉え景気判断を行う「米国経済超短期モデル(CQM)予測」を開始。タイ政府の依頼により、タイ経済のCQMを構築し、2005年末の津波後の 2006Q1のタイ経済成長率を的確に予測。また、2007-09年には慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所に対して日本経済のCQMを構築する。

経済対策への仕事としては、IT革新による米国の高経済成長の可能性をまとめた論文集 ”The Rising Tide”を、ノーベル経済学者を含む28人の政治家・エコノミストとともに1998年に出版し、米国の高成長への経済政策を提唱した。また、日本においては、2005年より日本経済の潜在成長力の低すぎる考え方に批判を続ける(上げ潮政策_人脈)。自民党シンクタンクのプロジェクト”日本の3%成長に向けての経済政策”や、経団連の21世紀政策研究所のプロジェクト“IT革新の日本産業への影響と経済政策のあり方”に携わり、日本経済の 3%〜4%の持続的経済成長の可能性を実証分析にもとづいて提唱している。


ウェブサイト ITeconomy Advisors, LLC


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