ナーシム・ニコラス・タレブ Nassim Nicholas Taleb
研究者、元デリバティブ・トレーダー
ウォール街でデリバティブ・トレーダー、数理ファイナンスの専門家として活躍。金融業界を退いたあとは、大学教授、作家として、不確実性科学を研究している。著書にベストセラー『まぐれ』、『ブラック・スワン』(ダイヤモンド社刊)などがある。


「ポーカーはランダム性について学べる唯一の現場なのかもしれない。なぜなら、ポーカーには、ほかにも不確実性の上位層がたくさん隠れているからだ。

 ポーカーでは、食い物にしたくなるようなカモもいれば、あなたをカモにしようとする人もいる(もちろん、あなたに気がつかれないまま)。ただコインを投げて、左や右に賭けるわけではない。ルーレット盤のように、大きな機械を相手に賭けをするわけでもない。カードを見ずに引くわけでもない。ほかの人間を相手にプレーするのだ。対戦相手が最大限に賭けてくることを簡単に制御できない。

 どのような方針で賭けるかは、ある特定のカードを獲得する確率よりも、はるかに重要だ。ポーカーでは、はったりをかけて逃げ切ったり、ほかのプレーヤーを混乱させたり、悪い手をものともせずに勝ったり、あるいは予想外に良い手でも負けたりすることがある。また、賭けというものは、とりわけエスカレートするものだ。

 つまるところ、確率には「自閉的確率」と「社会的確率」がある。後者は、人間関係のごたごたや、もつれのせいで複雑だ(だから面白い)。そしてポーカーと本書がわれわれを導いてくれるのは、その後者である。

 このように、カードに関する不確実性、他人の賭け方に関する不確実性、他人があなたの賭け方をどう考えるかに関する不確実性があるため、ポーカーは現実世界に似ているといえる。だが、ポーカーは本書が示すように、思いもよらない点で、さらに現実世界に似ているのだ。」

(『ギャンブル・トレーダー』に寄せた序文より)