しかし、今までそうであることを前提としていた事柄が、いつの間にか前提ではなくな りつつあるようだ。日本の人口が減少を始めているのは周知の通り。物価も一時的どこ ろかこの10年間近く下がり続けており、今や下がる方が日本では「常識」となり始めて いる。つまり、今までとは違う新しい社会が形成されつつあるということだ。それは、 過去の延長線上にはない。
『未来予測レポート』で提起しているのは、パラダイム、すなわちその時代や社会の 中で「前提として認識されている基本的な事柄が大きく変わろうとしている」というこ とである。「産業構造の転換」というのは決して大げさな表現ではない。エレクトロニ クスメーカー、自動車メーカー、電力・石油・ガス会社、放送局、広告代理店、新聞社、出版社・・・。大企業といえども「この会社は20年後も安泰」と思える企業が果たしてどれくらいあるだろうか。過去にこれほど多くの業界が不安定になったことがあるだろうか。産業構造の転換は現実である。これを直視することから始めなければならない。
技術は積み重ねであるため、そこから将来を予測するとどうしても未来像を過去の延 長線上に描きがちだ。しかし、人口増加から減少に転じ、ブロードバンドのような新た なインフラが登場するなど、現実の社会は「不連続」だ。たとえば、大きな変化の象徴 として話題にのぼるようになった「サスティナビリティ」と「クラウド」は、ほとんど の企業にとっては「業界外」で巻き起こった出来事である。けれどもこれらは、あらゆ る業界に産業の枠組み自体を変えるほどの大きな衝撃を与えることだろう。
このように社会の前提条件が大きく変わろうとしている時こそ、自らの業界の外にそ つなく目を配らなければならない。そのうえで、自らの思惑を交えることなく未来像を 見極め、自らの姿を見つめ直すべきであろう。
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