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ヘタな経済書より名作に学べ
金と相場

鍋島高明 著
河出書房新社
四六判
2,100円 (税込)
ヘタな経済書より名作に学べ 金と相場

今回コメントくださったのは 杉村 富生 さん です
Q1 オススメ書を教えて下さい。

株式投資は、それによって、豊富な知識を得られるとともに、人間性を高め、人生を豊かにする――。これは筆者の持論である。

著名な投資家、ウォーレン・バフェット氏は「私にとって幸いだったのは、物心ついたとき、そこに株式市場があったことだ」と語っている。まあ、普通の投資家はなかなかこんな心境にはなれないが……。

本書では東西の金 (カネ) と相場にまつわる数々のエピソード、書物を紹介している。構成は第一部のマネー、第二部の相場に分かれている。副題にもある通り、「ヘタな経済書」を読むよりもずっと投資に役に立つ”実践書”といえる。

ともあれ、株式市場を舞台にかくも多くの「名作」が書かれていることに驚かされるし、「エッ、あの人が?」とビックリするような人物が相場の魅力にのめり込んだ”事実”は一読の価値あり、と判断する。

菊池寛著の 『真珠夫人』 では船成金がカネの力で深窓の令嬢を手に入れるものの、「私は金で買われてきた身ですが、心までは売りません」と”床入り”を拒否されてしまう。先年、「女は金についてくる」と豪語していたIT長者が破滅したが、『真珠夫人』を読み、お金の魔力をもうちょっと理解していれば謙虚になれただろうに、と悔やまれる。

三島由紀夫著の 『青の時代』 では逆に、「私は男を愛せない。信じられるのはお金だけ」と主人公の恋人に言わせている。そして、主人公はヤミ金融に走る。そう、お金は心を狂わせる。

実は、『放浪記』の林芙美子が上京後、5年の間に、いろいろな職業を転々とするが、証券会社に勤めていたことは意外に知られていない。その社名は「茅場町の日立商会」と『放浪記』には記されている。

この”日立”は自分を捨てた初恋の岡野軍一 (明治大学を卒業後、尾道の日立造船に入社) にちなんだものだろう。

このほか、島崎藤村著の 『家』、谷崎潤一郎著の 『幼少時代』、沙羅双樹著の 『浪花の勝負師』、永井龍男著の 『ゆうやけ空』、杉森久英著の 『大風呂敷』、斉藤憐著の 『カナリア――西条八十物語』、瀬戸内晴美著の 『女徳』、池波正太郎著の 『青春忘れもの』などが登場する。

著者の鍋島高明氏には 『相場師奇聞』 をはじめ、『相場師異聞』 『今昔 お金恋しぐれ』 『鎧橋のほとりで』 『相場師列伝』など多くの相場師に関する著書がある。その取材力、古本の収集力には圧倒される。

と同時、著名な小説家たちの兜町との関わり合い、お金の怖さ、その盛衰を知ることができ、欲に底なし! の教訓を戒めとして実感させられる一冊である。

Q2 5点満点で採点すると?
読みやすい★★★
知識がつく★★★★
おもしろい★★★★★
儲かる★★
専門的★★★★
総合オススメ度★★★★
杉村富生さん
Tomio Sugimura
杉村富生さん



経済評論家

1949年熊本県生まれ。 明治大学卒業後、有力証券専門紙に入社。以後、20年余にわたって金融、経済、産業の第一線を取材。編集局産業部長、証券部長などを歴任後、1991年に独立してフリーとなる。 現在、経済評論家としてラジオNIKEEIほか、ラジオ・テレビに出演中。わかりやすい経済・市場解説や、実戦的かつ鋭い株価分析には定評がある。個人投資家からの人気は絶大なものがあり、講演活動も精力的に行なっている。

主な著書に、『杉村富生の資産を100倍する株式投資』(実業之日本社)、『これ以上やさしく書けない株式投資術』(PHP研究所)などがある。

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